「老後に2,000万円必要」といった数字を見て不安になったことはありませんか。 でもその金額は、あくまで平均的なモデル世帯の話で、 自分の家計にいくら必要かは、自分で計算しないとわかりません。 その計算がライフプランシミュレーションです。 名前は難しそうですが、やることは「これから何にお金がかかるか」を年表にして、収入と並べてみるだけ。 しかも、金融庁や厚生労働省が無料のツールを公開しているので、 保険や投資の相談窓口に行かなくても自分でできます。ここではその手順をひととおり整理します。
ライフプランシミュレーションとは|家計の「天気予報」を作る作業
ライフプランシミュレーションは、これから先の収入と支出を1年ごとに並べて、貯蓄残高がどう動くかを見る作業です。 家計の「天気予報」のようなもので、当てることが目的ではありません。どのあたりで雨が降りそうか(貯蓄が減りそうか)を、早めに知るために作ります。
作るものは、次の3つだけです。
- ①ライフイベント表:何年後に、家族に何が起きるか(進学・車の買い替え・退職など)
- ②キャッシュフロー表:1年ごとの収入・支出・貯蓄残高を並べた表
- ③バランスシート:今の資産と負債(住宅ローンなど)の一覧
このうち最低限①と②があれば十分です。 後で紹介する無料ツールを使えば、②は自動で計算してくれます。
始める前に用意するもの(5分でそろいます)
- 手取り年収(源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」ではなく、実際に振り込まれた額の合計)
- 今の貯蓄額(預金・投資信託などの合計。ざっくりで可)
- 毎月の生活費(家計簿がなければ「手取り − 毎月増えた貯蓄額」で逆算できます)
- ねんきん定期便(将来の年金の目安。誕生月に届くハガキ)
- 住宅ローンの残高と完済予定年(借りている場合)
※1円単位で合わせる必要はありません。万円単位のざっくりした数字で十分です。 正確さより、まず1回作ってみることのほうが役に立ちます。
自分でできる4つのステップ
ステップ1:ライフイベント表を作る(これが一番大事)
紙でもエクセルでもかまいません。左に西暦、その隣に家族全員の年齢を並べ、 そこにお金がかかる予定を書き込みます。
- 子どもの進学(高校・大学・入学金)
- 車の買い替え(何年ごとか)
- 住宅の修繕・リフォーム(給湯器・外壁など)
- 自分と配偶者の退職
- 年金の受け取り開始
- 親の介護が始まりそうな時期
この表を作るだけで、「支出が重なる年」が目に見えてきます。 たとえば「下の子の大学入学」と「車の買い替え」と「自分の定年」が同じ年に来ている、といった発見が、 シミュレーションの一番の収穫であることも珍しくありません。
ステップ2:現在の家計を1年分の数字にする
手取り年収と年間の支出を出します。 支出の内訳は、細かく分けるより「毎月出ていくお金(生活費)」と「たまに出ていく大きなお金(イベント費)」の2つに分けるほうが、あとの計算が楽です。
ステップ3:将来の収入を見積もる(ここは公的ツールに任せる)
一番わかりにくいのが年金がいくらもらえるかですが、これは自分で計算する必要はありません。 厚生労働省の公的年金シミュレーターは、ねんきん定期便のQRコードを読み取るだけで、働き方を変えた場合の年金額まで試算できます。
退職金は、勤務先の退職金規程や人事部への確認で概算がわかります。 わからない場合はいったんゼロで計算しておくと、安全側の見通しになります。
ステップ4:貯蓄残高の推移を並べて、へこむ年を探す
あとは、1年ごとに「前年の貯蓄 + 収入 − 支出」を計算していくだけです。 エクセルなら1つの式をコピーするだけですし、後述の無料ツールなら入力するだけで自動計算・グラフ化してくれます。
見るポイントはひとつ、「貯蓄残高がマイナスに近づく年があるか」です。 あればその手前で手を打てばよく、なければ今のペースを続ければよい、という判断ができます。
無料で使える公的ツール|目的別の使い分け
- ざっくり全体像をつかみたい → 金融庁「ライフプランシミュレーター」:年齢・年収・家族構成などを画面の質問に答えて入力すると、将来の収支グラフが出ます。登録不要で数分。まずはここから。
- 年金の見込額を知りたい → 厚生労働省「公的年金シミュレーター」:ねんきん定期便のQRコードを読み取るだけ。ID登録もデータ保存もなく、その場で試算できます。
- より正確な年金記録で試算したい → 日本年金機構「ねんきんネット」:自分の実際の加入記録にもとづく試算ができます(マイナポータル経由で登録)。
- 自分の手で表を作り込みたい → 日本FP協会「便利ツールで家計をチェック」:ライフイベント表・家計のキャッシュフロー表・バランスシートの様式が無料でダウンロードできます(PDF・エクセル)。
- 質問に答えるだけの簡易診断がいい → 日本FP協会「ライフプラン診断」:いくつかの質問に答えると、家計の傾向を診断してくれます。
※いずれも公的機関・公益団体が運営する無料ツールです。ツールの仕様や公開状況は変わることがあります。
数字を置くときの3つのコツ
- 収入は「手取り」で入れる:額面で計算すると、税金・社会保険料の分だけ実態より明るい結果になります。
- 運用の利回りは控えめに、支出の上昇は多めに:都合のいい数字を入れると、都合のいい結果しか出てきません。 「思ったより渋い」くらいの前提で作っておくほうが、あとで慌てずに済みます。
- 1年に1回、作り直す:転職・出産・住宅購入など、状況が変われば結果も変わります。ぴったり当てる表ではなく、更新し続ける表だと考えてください。
「無料のライフプラン相談」を利用するときの注意
民間の保険代理店やFP事務所が行う「無料ライフプラン相談」は、保険や金融商品の販売とセットになっていることがあります。 相談自体が悪いわけではありませんが、シミュレーションの結果として「この不足を埋めるにはこの保険を」と特定の商品をすすめられた場合は、その場で契約しないことが大切です。 いったん持ち帰り、まず公的な無料ツールで自分でも同じ試算をしてみると、 提示された前提(利回り・支出額・必要保障額)が妥当かどうかを落ち着いて確認できます。
結果が「足りない」と出たときにできること
シミュレーションで不足が出ても、選択肢は保険や投資だけではありません。打ち手は大きく4つです。
- 収入を増やす(働く期間を延ばす・配偶者の就労時間を増やす)
- 支出を減らす(特に通信費・保険料・住居費といった毎月かかる固定費)
- 受け取り方を変える(年金の繰り下げ受給など)
- 資産を増やす(NISA・iDeCoなどの制度を使った長期の積立)
効果が大きく、かつ確実なのは固定費の見直しです。 一度下げれば毎月ずっと効き続けるうえに、投資と違って結果が運に左右されません。
まとめ|1回作れば、不安が「課題」に変わる
- ライフプランシミュレーションは「ライフイベント表」と「キャッシュフロー表」を作るだけ
- 数字は万円単位のざっくりでOK。正確さより、まず1回作ることが大切
- 年金の見込額は公的年金シミュレーターやねんきんネットに任せられる
- 見るポイントは「貯蓄残高がへこむ年はどこか」のひとつだけ
- 無料相談で提示された試算は、その場で契約せず持ち帰る
- 不足が出たら、まず固定費の見直しから検討する
漠然とした「老後が不安」は、数字にすると「70歳前後で貯蓄が薄くなりそう」といった具体的な課題に変わります。 課題になれば、手の打ちようがあります。
まずは無料の公的ツールから
全体像は金融庁「ライフプランシミュレーター」、年金額は厚生労働省「公的年金シミュレーター」、表の様式は日本FP協会からダウンロードできます。本記事は一般的な情報の整理であり、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。 個別の事情に応じた判断は、公的な相談窓口や専門家にご確認ください。